超エリート集団か? はたまた世間知らずのお坊ちゃまか? 慶應幼稚舎の光と影
日本一のエリート小学校「慶應幼稚舎」の実力、その弱点を経済学者・橘木俊詔氏が著書『公立VS私立』で次のように分析している。慶應エリートの強さともろさが見えてくる。
盤石すぎる幼稚舎・慶應人脈
慶應幼稚舎の教育理念の一つとして、「社中協力」という言葉が掲げられています。「社中」とは、在校生や出身者、教職員など慶應義塾にかかわった人たち、すべてを指し、そうした人たちで社会に出てからも力を合わせて母校を盛り立てていこうというのが、福沢諭吉以来の建学の教えになっています。
慶應幼稚舎の発足は1874(明治7)年ですから、すでに140年におよぶ歴史があります。おじいさん、お父さん、子どもと三代にわたる「慶應ファミリー」の家庭も多くあるでしょう。そういう家庭同士のお付き合いが続くと、それは鉄の結束となるようです。
どこの学校にも同窓会は存在しますが、慶應義塾の同窓会「三田会」は、ほかと比べてもかなり強固なネットワークを誇ります。地域ごとの「三田会」、職種や職域別の「三田会」が存在します。そしてそれら数多くの三田会を統括する「連合三田会」は、慶應義塾本体に対して大きな影響力を持っています。
一部上場企業の中では慶應義塾出身の社長が最も多く、上層部が慶應閥という企業も多いので、就職に関しても慶應義塾の看板は大きくものをいいます。面識がなくても先輩の援助が得られる機会もあるそうです。
そのなかでも、幼稚舎出身のネットワークは強固なものがあるそうで、社会生活でも、友人にひと声かければ、仕事の上でも有力な人脈や情報がはいりやすく、将来にわたって役立つというわけです。
そう聞けば、時代が変わっても、わが子をなにがなんでも幼稚舎に入学させたいと考える慶應ファミリーがあるのも、うなずけます。
華の“95年慶應幼稚舎6年K組”と某タレント子息の事件
ここに1995年3月卒の“慶應幼稚舎6年K組”の就職先(そのまま慶應一貫で進学し、2004年に慶應義塾大学を卒業)を追跡した興味深いデータがあります(『プレジデントファミリー』2010・11月号)。
それによれば、医師4人、家業4人、弁護士2人、電通2人、博報堂、TBS、日本テレビ、フジテレビ、ボストンコンサルティング、三菱商事、三菱東京UFJ銀行、横浜銀行、キリン、サントリー、第一生命、NEC、日本アジア投資、IKEA、バーテンダー、歯科医師、公認会計士、専門商社、コンサルティング会社、法科大学院生、金融関係、ソムリエ志望が、各1人――となっています。
34人中のなんと6人がテレビキー局、大手広告会社で、大企業が目立つ華々しい結果となっています。同記事の中で紹介されていた大手キー局営業局勤務の幼稚舎OBも、同じフロアに4人は幼稚舎出身がいて、所属している営業局の局長も出身者とのことです。
芸能界にも幼稚舎の関係者は多く在籍しています。2013年秋、有名テレビタレント某氏(当時69歳)の息子が窃盗未遂事件を起こし、ワイドショーを賑わせる騒動がありました。その息子自身も、慶應幼稚舎上がりの慶應義塾大学出身で、テレビ局勤務でした。酔って寝込んでいた人のカバンから財布を抜き取り、他人のカードでコンビニATMから金を下ろそうとしたという、なんともお粗末な事件でした。
はじめ、当人が窃盗容疑を否認したため、強気で「息子を信じる。30歳過ぎたら別の人格」と豪語していたタレント氏も、息子が一転して罪を認め、仕事先を諭旨解雇となると、「親の責任」と謝罪し、出演を自粛していた人気冠番組を降板しました。
(中略)
この件を聞き、「幼稚舎出身だから」とまで言うのは的外れだと思いますし、タレント氏は記者会見で「中学校までは殴って厳しく育てた。小遣いもあまり与えなかった」などと言っていましたが、親の年収が十数億円などという普通の家庭とは違う特殊な育ち方をすると、普通の人間とは違う行動をとってしまうことがあると思わせられました。
(中略)
彼のように、極悪なことをしたわけではない、ちょっとした窃盗をするような人間は、慶應の卒業生ではなくても世の中にはたくさんいます。ただし、そういう世間のことをあまり知らない温室育ちで社会に出てくると、異様な行動をとる確率が高まる可能性がある――とは言えるのではないでしょうか。
(『公立VS私立』をもとに構成)
文/KKベストセラーズ書籍編集部